記者 赤松茜
九谷焼作家として活躍される宮本雅夫さんに九谷焼の魅力や作品作りに込めた想いを数回に分けてお聞きします。
初回の今回は九谷焼の特徴と、初心者向けの九谷焼作品の選び方についてお聞きしました。
九谷色絵松竹梅文酒盃 宮本忠夫
九谷焼の特徴とは?
編集部:九谷焼というと緑・紫・紺青・黄・赤の原色五彩からなる強い色彩や鳳凰など華やかな絵柄が絵付けされた古九谷が頭に浮かびますが、あらためて九谷焼の特徴を教えていただけますでしょうか?
宮本:九谷焼は古九谷のような原色のみを使用したものの他、赤絵細描や色絵金襴手など、作り手ごとに様々な表現があるのが特徴です。同じ産地の中でこれほど多くの技法があるのは、全国でも九谷焼にしかないと思います。
窯元ごとに特徴のある絵付けをしますが、真生窯では高温で焼成すると光沢あるガラス質に変化する和絵具のみを使っていて、中間色は使いません。また、下地に呉須(ごす)という黒い絵の具でしっかりと絵柄を描き込むため、サイズは小さくてもインパクトのある作品になりますね。目にダイレクトに飛び込んでくるような。
家庭でも、いろんな種類の産地や形・色の器がある中に、1個か2個九谷焼の器を取り入れてほしいですね。確実に食卓の空気感が変わりますよ。
編集部:5色すなわち五彩のみで描かれた九谷焼の伝統的な表現というのは存在感があり、華やかさと重みを感じるということですね。
宮本:限られた色彩で表現することは、逆にとても魅力的です。
青手幾何文額皿 真生窯
華やかな色彩と絵柄
編集部:先生が描かれる作品はどれも色彩は強いのですが、とても繊細な絵柄や筆遣いが印象的です。
宮本:例えば下地に描く呉須の線描ひとつとってもそうですが、九谷焼というのは昔から「絵付けを離れて存在しない」と言われてきたように、まずは絵の世界なんです。これが他の焼きものとの大きな違いですね。
お料理を盛る側からすると、内側に絵がびっしり描いてある器は使いにくいと言われることもあります。ご自宅でも白磁のものが一番使いやすいなんて思われたりするでしょう?
編集部:はい。自宅での食器を選ぶときには無地のものや絵柄が少ないものを選ぶことが多いです。
宮本:九谷焼の産地である石川県でさえも、そのようなことを言う料理人さんはいますよ。たまたまそのような人たちと会ったりすると、いやいや待ってと。地元で採れた土で成形した素地と、絵を隙間なくびっしりと描いてしまう絵付け師の存在とが合わさったものが九谷焼で、これってまさに風土から生れたものですよ。是非使いこなして欲しいと。白磁の良さもありますが、絵が描いてある器でさらに料理を活かすというのは大切だと思います。
ここまで密に絵が描き込まれた器って日本の産地では他にないですよ。多分世界にもない。九谷焼の大きな魅力です。
どんな器を選べばよい?
編集部:初心者が九谷焼を購入する際に何かアドバイスはありますか?
宮本:サイズは小さくても良いので密度のある絵付けがされているものを選んでみてください。描かれている模様は、自分の琴線に触れるもので良いと思います。
具象的な絵と小紋がミックスされたものは、九谷焼への入り口としてお薦めですね。具象のものだと、例えばザクロであれば秋とかその時期しか使えないと思われるかもしれません。でもそれくらいであれば四季を通して使えるようにそれぞれの時期のものを毎年買われる楽しみができますね。
もちろん季節を問わないモチーフがあるものでも良いと思います。
絵が描いてある焼きものって、長い目でみると飽きがこないんですよ。
買ったその時の気持ちと、数年後見るとでは、同じ絵柄でも感じ方が変わる。そんな楽しみもあります。これは白磁では感じられない魅力ですね。
色絵豆皿 林檎 宮本雅夫
九谷焼は裏側まで美しく絵付けされていることが多いので、そのあたりもしっかり見て選ばれると良いと思います。
それと凹凸がある質感も魅力です。絵の具のガラス質が厚いことで生まれる貫入(ひび割れ)は、九谷焼が火の芸術であるということを改めて教えてくれますね。
編集部:洋食器では貫入は敬遠されがちですので、貫入を楽しむというのは九谷焼ならではですね
宮本:偶然性があまりない制作工程の九谷焼において、どんな形の貫入になるかは窯の神様の気分次第(笑)
緑彩桃果文四方皿 宮本雅夫
宮本雅夫さんおすすめの器選びのポイント
1. 絵柄に密度のあるもの。
2. 具象的な絵柄と小紋柄が合わさったもの
3. 貫入が入っているもの
宮本雅夫さんの作品に会える 展示会の案内
編集部:お父様と毎年開催されている父子展が今年も開催されます。
このような時期ですが、よろしければお出かけいただき、素晴らしい作品に触れてください。
展示会情報
九谷 宮本忠夫・雅夫 夫子展
会期 令和3年7月21日(水)~7月27日(火)
会場 日本橋高島屋S.C.本館6階美術画廊
最終日は午後4時にて閉場
お話を伺った宮本雅夫(真生窯)先生プロフィール
1971年小松市生まれ。96年東京芸術大学美術学部卒業。2005年文化庁派遣新進芸術家在外研修員として渡伊。14年伝統九谷焼工芸展大賞。16年兼六園大会茶会公募展最高賞。18年四日市市萬古陶磁器コンペグランプリ。現代茶陶展TOKI織部奨励賞。18年・19年日本伝統工芸展出品作「緑彩真麗線文鉢」宮内庁買い上げ。
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