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九谷焼作家 宮本雅夫さん(真生窯)にお聞きする九谷焼の魅力 vol. 2 ~作品に対する想い~

更新日:2021年8月18日

記者:赤松茜


九谷焼作家として活躍される宮本雅夫さんに九谷焼の魅力や作品づくりに込めた想いを数回に分けてお聞きします。

2回目の今回は九谷焼の魅力と作品に対する想いをお聞きしました。



光となる器

宮本:九谷焼の最初の形である古九谷が生まれた当時は今のように電気の明かりはなく、昼は太陽の光、ましてや夜は蝋燭の灯りのみでした。そんな暗がりの中で浮き上がるように見えた器は、まさに宝石のように輝く宝物だったのではないでしょうか。


編集部:電気を消してその当時の気分を味わってみましょうか…。確かに明るいところで見ると器の表情というか、印象が変わりますね。


青手幾何文額皿 真生窯


宮本:こんな風に照明を落としてみると、特に黄色は金色に見えませんか?その時代の人は、日常生活において、器にも光を求めていたのではないかと想像します。


編集部:石川県は雪も多く降りますものね。外は暗く、部屋の中も今ほど明るくない中で、器の華やかな黄色は確かに温かい光のような印象を受けます。


宮本:この種の表現の器が、一年を通して日照時間の長い温暖な気候の太平洋側ではなく北陸で生まれ、なおかつ現在も石川県でのみ作られているということに大きな意味があると思います。


編集部:その土地で暮らす人がその土地の風土に合ったものを生み出すということですね。


宮本:食でもそうですよね。その土地で採れたものをその土地に合った食べ方でいただくのが本来の形であり、一番美味しい。器も同じですね。




九谷焼作家として


編集部:九谷焼作家としての活躍をいつも楽しみに拝見しています。


宮本:伝統を受け継ぎながら新たに発展させていく、そのことが自然体に出来るのは、産地で生まれ育った者の強みなのではないかと考えています。その気持ちで作品づくりに取り組むようになって、数年前からやっと自分のことを九谷焼作家と名乗れるようになりました。何となく喉に引っ掛っていた憑き物が取れて、気持ちが楽になりましたね。


編集部:今はどのようなテーマを持たれて作品を作っていらっしゃいますか?


宮本:グローバリゼーションの波が加速する現代だからこそ、地域に根差したローカリティーを深く探ることで、普遍的な価値が生まれます。地域性がはっきりした作品づくりが今の私のメインテーマですね。逆説的かもしれませんが、それがグローバルスタンダードな表現に繋がると思うので。


作品へのこだわり

緑彩真麗線文茶碗 宮本雅夫


宮本:自分にしかできない作品をつくりたいとの想いから、近年では緑彩と名付けた表現にチャレンジしています。


編集部:美しい緑と精緻な線描、そして呉須を掻き落とすことで生まれるマチエールが合わさって、味わい深く素晴らしいですね。


宮本:作品をつくる上で大切にしていることは、線描です。筆で描く一本の線が模様となり、それが集まったものが絵になります。九谷焼というのは作り手の個性が最も分かりやすく目に見える形で凝縮された焼き物だと言えるかもしれませんね。

鳥や植物など具象モチーフはもちろん、幾何学など抽象モチーフを描くときも、1本の線にこだわりを持ち、自分にしかできない生きた線を描く。線そのものが模様になるようにと願って作品づくりに取り組んでいます。それが魅力あるモノに繋がると信じて。



緑彩真麗線文茶碗 宮本雅夫


編集部:作品のどこを切り取っても観ても格好良いです。


宮本:恰好良さが備わることはとても大切ですね。意匠や色など、本質では古典的なのですが、それをとことん突き詰めた表現をすることで、むしろ新しさやカッコよさに繋がります。技法は昔から伝わるものでも、今の時代に生きる作り手の器づくりをしないと、単に古いままになってしまいますから。それはそれで意味はあるのですが、私のやるべきことではないと思っています。


今後の作品づくりについて


編集部:先生は九谷焼の良い伝統を残しつつ、常に新しい表現を追求されていらっしゃるのですね。作品づくりをされる上で特に意識されていることはありますか?


宮本:どんな分野でもそうですが、九谷焼の世界でも一つの技法を一生かけてずっと追究するのはとても大事なことです。ましてや、一生かけても納得のいくモノが出来るとは限りませんから。しかし一方で、見てくださる方に「全然変わり映えしないね」と思われないようにしないといけません。

一般企業でも会社としての本質は守りつつ、常に時代のニーズに合わせたチャレンジをされているでしょ?それと同じように、真生窯として、また一人の九谷焼作家として変えてはいけない大切なものは守りつつ、常に新しい表現に取り組むよう心掛けています。

実際、過去には作風をマイナーチェンジではなく、ダイナミックにガラッと変えることもしました(笑)


編集部:本質は変えずに表現方法を変えていくということでしょうか。


宮本:はい。大胆な変化をつけながらも本質は変えず、とことん九谷焼というものにのめり込み、そこにしっかり足をつけてモノづくりをしていこうと思っています。時には振り幅の大きな展開も交えながら。そのほうが、見る人もワクワクするのではないでしょうか。


お話を伺った宮本雅夫(真生窯)先生プロフィール

1971年小松市生まれ。96年東京芸術大学美術学部卒業。2005年文化庁派遣新進芸術家在外研修員として渡伊。14年伝統九谷焼工芸展大賞。16年兼六園大会茶会公募展最高賞。18年四日市市萬古陶磁器コンペグランプリ。現代茶陶展TOKI織部奨励賞。18年・19年日本伝統工芸展出品作「緑彩真麗線文鉢」宮内庁買い上げ。

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