記者:赤松茜
九谷焼作家として、錦山窯四代目として活躍される吉田幸央さんに九谷焼の魅力や作品作りに込めた想いを数回に分けてお聞きします。
今回は錦山窯四代目として、錦山窯の特徴についてお聞きしました。
錦山窯 ミロク 八藤
錦山(きんざん)窯(がま)の特徴とは?
編集部:九谷焼というと古九谷のような原色のみを使用したものや、赤絵細描や彩色金襴手、など作り手ごとに様々な表現がございますが、錦山窯といえば金を使った美しく格調高い表現が特徴ですね。
吉田:錦山窯はすべての作品に金彩が施された作品を制作しています。金彩を中心に制作している窯は全国的に見てもかなり珍しいと思います。
作品に使用する金粉、金箔はとても大切なもので、金粉は自分の手で製造し、金箔は手打ちのものに、オリジナルの厚みのものを特別に製造してもらっています。
代々金彩に関する技術力を高めてきたのが錦山窯の特徴です。その一方で、金彩技法を取り入れた様々な表現を試みた作品作りにも取り組んでいます。
編集部:錦山窯はご家族皆様が家業に就かれ、それぞれ個性的で素晴らしい作品を作られていますね。
吉田:父の吉田美統(国指定重要無形文化財保持者 人間国宝)が手掛ける釉裏金彩は金箔の上に釉薬を施した陶芸の中でも極めて難しいとされる技法です。卒寿となった今でも作陶を続ける毎日で7月14日から19日までは日本橋三越本店にて個展を開催していました。
私、妻、息子、娘とともに赤絵金彩、色絵金彩など金彩の仕事を引き継ぎながらそれぞれの表現を模索し続けています。
ブランディングについて
編集部:錦山窯は作家の皆様それぞれの個性が光るだけでなく、窯元としてもスタイリッシュな印象を作られているように感じます。
吉田:錦山窯については窯の知名度を上げる仕掛けを10年ほど続けています。商品開発はもちろんですが、パリのMaison&Objet(メゾン・エ・オブジェ)に出展するなど、錦山窯としての特徴をどのように魅せていくかというブランディングもここ数年地道に試みています。
編集部:錦山窯のHPを初めて拝見した時のスタイリッシュにまとめられたページは良い意味で伝統的な九谷焼という印象とは異なるものでした。それでいてHPの内容を読み進めると歴史や九谷焼を作り続ける風景など多くを学ぶことができました。
吉田:その感想はとてもありがたいです。私たちの目指すブランディングが多少なりとも効果があったということかと思います。
私たちは作り手なので作品を作ることはできますが、プロモーションや営業といったことは苦手です。HPについても感覚的には分かりますが、構築や更新について実際作り込むことができないので、そういったことをすべて専門の方へお願いすることにしています。
錦山窯の大切に守っていきたい部分を理解していただいたデザイナーやプロモーションの専門家の方々とともに「チーム錦山窯」を作り、毎月オンラインでの打ち合わせを重ねながら、錦山窯のブランドを作りに協力してもらっています。
九谷焼の中では会社組織として窯が動いているところはもともと数少ないのですが、さらにデザインやブランディングを外部委託いている窯は珍しいのではないかと思っています。
このチームの提案で、今までにないお相手とコラボレーションさせていただいたり、自分たちだけでは思いもつかなかったプロモーションをすることができるようになってきました。
この社外のチームと一緒にブランディングをしてきたここ7年間は、自分たちが漫然と続けてきたやりたいことを見直した時期であり、さらにコロナの影響もあり、このさきどのようにしていきたいかという考え方が大きく変わってきた転換期でもありました。
編集部:先ほど話題に出ましたが、錦山窯との組み合わせが意外なお相手とのコラボレーションも多くされていらっしゃいますね。
吉田:窯としての新たなチャレンジして取り組みました。今までの私たちがやってきたことは画廊などの箱の中で作品を見ていただくだけというようなことでしたが、最近のコラボレーションではファッション関係や、作品でお茶やお酒を飲ませるようなところなど、今まで関係のなかったような方々と一緒に、特別企画とともにさせていただいています。
フローリストさんが主宰する花屋VOICE、カクテルバーのThe SG club、焼き鳥の蛤坂、紅茶屋さんのteatonなど、皆さん器を自由に使い、彼らの思いつくままに楽しく表現してくれました。
茶器に花を活けられたり。茶器でカクテルを飲まれたり。私たちでは思いつかないような器の使い方は新鮮で、新たな器の使い方の提案ができたと持っています。
編集部:固定概念を破った素晴らしい使い方と見せ方の提案は見ていてとても新鮮でした。
※コラボレーションの様子は錦山窯HP Newsよりご覧いただけます
錦山窯HP https://kinzangama.com/
錦山窯 ミロク 亀甲
繋いでいく伝統
編集部:金彩を施す伝統的な作品つくりの技術は維持しつつ、工房としての世の中へのアプローチ方法は意識的に変えられていらっしゃるのですね。ブランディングやプロモーションに力を入れられているそのきっかけはあったのでしょうか?
吉田:これまでは錦山窯と作家である父と自分たち夫婦の関係性の中でやってきていましたが、最近20代30代の息子と娘が一緒に働くことになり、自然と若い世代の人たちとの関わりが増え、彼らの世代と一緒に歩んでいこうという意識に変わりました。私の中でこれまで受け継いでした伝統技術や作業環境を「繋ごう」という気持ちが生まれてきています。次の世代に錦山窯の魅力を残し人間関係を引き継いでいってもらいたいと思っています。
どのような形であれ工房を続けていくことは心を繋いでいくことです。それを自然に伝える中に、意匠の面白さを再発見する楽しさがあったり、技術を身につける喜びがあったりします。これは、我々にとってとても大切なことであり、また幸福感を感じる瞬間でもあります。
金彩は特徴的な作業がいくつもあるので技術取得の難しい技法ではありますが、それを大切に繋いでいきたいと思っています。
吉田幸央 金襴手彩色 鉢
編集部:美しい金彩が華やかな錦山窯の魅力がさらに広がっていくイメージが広がるお話を伺いました。
次回は錦山窯四代ではなく、作家として作品へ対する思いなどお聞きいたします。
吉田幸央(錦山窯四代)プロフィール
1960年小松市生まれ。85年朝日陶芸展奨励賞。94年高岡クラフト展金賞。97年国際色絵陶磁器コンペンション97九谷準大賞。第23回長三賞陶芸展奨励賞。99年国際陶芸ビエンナーレ99特別賞。10年日本伝統工芸展高松宮記念賞受賞。以降多数受賞。 日本工芸会正会員。日本陶芸協会常任理事。石川県陶芸協会常任理事。石川県九谷窯元工業協同組合理事長。
【展示会情報】 卒寿記念 人間国宝 吉田美統展 会期 2021年9月2日(木)〜7日(火) 会場 金沢 香林坊大和8階ホール 最終日は午後5時にて閉場とさせていただきます。
*本記事での撮影協力:日本橋三越本店 アートギャラリー様
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